CIMの概念整理から、今後の展開を視野に試行を通じた課題検討へ ― CIM技術検討会の活動成果と新たな取り組み
例えば、CALS/ECでは2D CADに関する国際規格に則ったCADデータ交換標準「SXF(Scadec data eXchange Format)」が開発され、国交省直轄事業向け電子納品を中心に普及してきた。ただ、SXFに則ったCADデータの採用は、電子納品の統一化(厳格な標準化)という点では一定の成果があったものの、納品後の情報利活用という点では当初期待されたような成果に繋がっていないという実態がある。
それに対し、CIMのベースとなるBIMでは、BIMモデルがさまざまなソフトウェア間で連携しながら一定の活用メリットをもたらしていることに、同氏は注目する。
「(CALS/ECの際のように)すべてをきっちり統一化(標準化)しなくても、出来るところだけで良いのでは、というのがBIMの世界(で醸成されてきた認識)という感じです」
CIMが注目されてきた背景
「実は、1990年代初め、建設業の労働生産性は(製造業など他産業と比べて)高かったのです」
ところが、建設業の生産性が次第に低下してくるのと対照的に、製造業の生産性は上昇。CALS/ECへの取り組みが本格化する前の90年代半ばに逆転して以降、両者の差は大きく広がるばかりだった。
その間、製造業の生産性向上に寄与してきた一つの要素として笛田氏は、工業製品の開発におけるメカニカル3Dオブジェクトの活用に言及。3Dモデルを利用した解析やシミュレーション、ネットワークを利用した共同・並行作業などを例示。それに対し、建設業では単品受注生産という特殊性に加え、業務量自体の減少もあって生産性が相対的に低い水準で長く横ばいを続けている、と解説する。
一方、建築の分野では、建物の3D形状情報のみならずそれに関わる各種属性情報を統合する建築モデルをコンピュータ内に作成し、これを建物のデータベースとして設計から施工、維持管理に至る建築のライフサイクルにわたって活用しようというBIMの導入が進展してきた。
そこでは、設計段階でのウォークスルーや干渉チェックといった「見える化」、設計の初期工程において後工程で生じそうな仕様の変更などを事前に検討することで品質向上や工期短縮を図るフロントローディング(Front Loading)、さらに建築プロジェクトの初期段階から発注者をはじめ設計・施工などのプロジェクト関係者が協同で当たり最適な建築を目指すIPD(Integrated Project Delivery)などが展開。欧米を中心とする各国で、土木構造物の政府事業を含むプロジェクトにBIMあるいはIFC(Industry Foundation Classes)/BIMの適用が条件化されるなど、BIMがグローバルスタンダードになりつつある流れも窺われる。
先駆的なCIM適用の流れ
こうした動向を背景に、わが国でもBIMの概念を土木分野に先駆的に採り入れた(すなわち、CIMを先取りした)プロジェクトが出現してきた。
その代表的な一例として笛田氏が挙げるのは、国交省九州地方整備局川内川河川事務所で取り組まれた分水路(曽木の滝分水路)整備事業。同事業では、時間的に余裕のない激甚災害対策特別緊急事業であるとともに、観光地ゆえに景観保全への配慮も求められた。そのため、設計・施工プロセスを通じて3Dモデルやコミュニケーションツールを用い、非同期分散の環境下で産学官が協議。効率的な合意形成に繋がったことなどから、同事業は2012年度グッドデザイン・サステナブルデザイン賞(経済産業大臣賞)を受賞(受賞企業:熊本大学)している。
(画像はJACIC 提供) (Images provided by JACIC) |
Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment
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