建設業のための情報通信技術のトレンド ― 過去、現在、そして今後
Trends in Information and Communication Technologies for Construction:
Past, Present, and Future
調査から浮かぶBIM利用の現状
BIM利用の現状については、フローズ教授は2011年と2012年に英国、ニュージーランドおよびカナダで実施された調査を基に解説する。
まず、BIMへの認知と利用の実態に関しては、英国およびニュージーランドでは約30%、カナダでは60%の人々が「現在BIMを利用している」と回答。さらに、英国とニュージーランドでBIMを使っていない人々に対し、「BIMのことを知らないのか」あるいは「BIMのことを知っているけれど使わないのか」尋ねたところ、「BIMのことを知らない」との回答は10〜20%に留まった。
また英国に限って見れば、「BIMのことを知らない」人々が2010年で40%だったのに対し、翌2011年には20%と半減。逆に、「BIMを使っている」との回答はその1年間で10%から30%へと大幅に増えている。
これに対し、今後のBIM利用という面では、既に30%の人々がBIMを使っているという英国とニュージーランドで、1年以内に70%、3年以内に90%が「BIMを使うだろう」と回答。2、3年のうちの急速な普及に期待を示した。
一方、英国とニュージーランドで「BIMモデルを何に使っているか」尋ねたところ、80〜90%が「可視化に向けた3Dモデルの作成」と回答、用途としてかなり多いことが分かる。その反面、「スケジュールの自動作成(automatically generating schedules)」は40%、「工学解析(engineering analysis)」は20%、「部品表(bill of materials)の自動作成」に至っては10%と、エンジニアリングやプロジェクトマネジメント向けBIMモデルの利用は相対的にあまり高くない状況が浮かび上がる。
この点に関しては、カナダでもBIMを使った作業の実態について調査。概して「3Dの可視化(3D visualization)」絡みの項目が多く、解析やエンジニアリング、マネジメント関連のタイプの利用はまだ低い状況にあるという。
BIM利用のケーススタディ
BIM利用のケーススタディとして、フローズ教授は北米で広く知られる病院プロジェクトの一つ、米カリフォルニア州カストロバレーのサッター医療センター(Sutter Medical Center, Castro Valley)建設にフォーカスした。
同プロジェクトは最先端の機能を備えた、ベッド数130床の病院を建設しようというもの。総工費は3億2000万ドル。2007年に着工し、2013年の完成が予定された。
カリフォルニア州では病院の建設に当たり、新しい耐震安全の法律(California’s hospital seismic safety laws)に基づくことが求められる。そのため、サッター・ヘルス(Sutter Health)は同プロジェクトにおいて、当該建物の建築とともに既存施設の改善などさまざまなプロジェクトに対処。これらすべてをより短期間に、低コストで、訴訟等に伴う不確実性を極力排する中で完成させなければならなかった。
そこで同プロジェクトでは、複数の最先端かつ効率的手法(leading edge best practices)を導入。具体的には、プロジェクト実施方式としてIPD(Integrated Project Delivery)を採用し、主要な設計・施工会社11社がすべて損益分配(profit and loss sharing)を行うこととした。また、プロジェクトにはBIM利用で経験豊富な複数企業が参加。実際、広範にわたってBIMが使われ、15社以上のパートナー会社が3D詳細モデルの開発に携わった。「1cm以上のものはすべて3Dでモデル化された」といい、その成果はクラッシュ検出(clash detection)や建築基準適合の自動判定(automated building code-checking)、自動積算(automated estimating)などに利用された。キーメンバーの一人はそうした状況を、「IPD、BIMおよびリーン・コンストラクション(Lean Construction)のカクテル」と形容したという。
同氏はこのプロジェクトについて、一般的な同様のケースと比べ短期間かつ低コストで事業が進み、手戻りの削減に繋がるなど、BIM利用が非常に成功した例と評した。
Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment
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