建設業のための情報通信技術のトレンド ― 過去、現在、そして今後
Trends in Information and Communication Technologies for Construction: Past, Present, and Future


 一方、データモデルの標準という面では、前述の2D CAD向けに始まったIGESの活動が1983年頃、ISO(International Organization for Standardization)に則った製品データ向け交換標準のSTEP開発の取り組みへと継承。その最初の成果は1994年にリリースされている。

 その間、STEPで始まるデータ交換標準のための技術は、他の複数プロジェクトにも展開。同氏はそうした例として、CIMsteel(Computer Integrated Manufacture of Constructional Steelwork)をはじめ1980年代後半から1990年代半ばにかけて欧州を中心に取り組まれた建設関連の研究事業(research initiatives)に触れる。

 また1993年、STEPの中で建築(building construction)向けに求められる標準を立案するプロジェクト(Application Protocol Planning Project-Building Construction)がスタート。そこには、建築生産コアモデル(Building Construction Core Model)をはじめ、ビルディング・サービス(Building Services:HVAC)、鉄骨構造物(Structural Frame: Steelwork)、建物要素(Building Elements)など向け標準の作成が描かれた。

 ただ、それらの多くはSTEPにおいて標準の完成には至らなかった。それでも、建物要素の明示的形状表現については1999年にSTEP標準(「ISO 10303-225」)として発行されている。そして、その過程で蓄積された技術や考え方の多くは、STEPに代わり、同氏自身とくに馴染みがあるというIAI(International Alliance for Interoperability)によるIFCという新しい標準づくりの取り組みへと引き継がれた。

IAI/buildingSMARTによるBIM関連標準

 IAIは当初、オートデスクによる業界諮問グループ(industry advisory group)として1994年に始動。その後、建築業界でデータ共有とその相互運用を可能にする中立かつオープンな標準の作成を目的とし、独立した国際的組織に再編。1997年を皮切りに、1990年代と2000年代を通じて多様なIFCs(建物を構成するオブジェクトのシステム的表現方法の仕様)標準がリリースされている。

 IFCに向けた初期のビジョンでは、多くの参加者が同じ建設プロジェクトを描くのに、それぞれ異なるソフトウェアを使用。建築データの標準がなかったため、プロジェクトを通じた情報交換は多様なコンピュータやソフトウェア毎(many-to-many)に、場当たり的(ad-hoc)で、かつ人の再解釈を介在させる形(human-reinterpreted)で行われていた。そこで、その厄介な状況(messy picture)に対し、標準化によりすべてのソフトウェアで共有可能なデータモデルに置き換えようとの発想に至った、とフローズ教授は説明する。

 そうした取り組みと並行し、各国ではIFC標準の推進に資するさまざまな独自の試み(initiatives)も立ち上げられている。

 同氏はまず、フィンランドやシンガポール、オーストラリアなどにおける国レベルの、早期からの積極的なIFC導入策を列挙。併せて、米国では2003年、連邦政府の施設に関する管理や調達を行う政府機関である連邦調達庁(General Services Administration:GSA)が、2007年度以降の発注でBIM-IFCの活用を要件にすることとし、その運用を開始。また英国では近年、政府が発注するプロジェクトにおいては2016年までに3D BIMモデルの利用を要件とする旨発表している、といったアプローチを紹介。さらに、IFC技術が本格的に用いられた最初の事例として、ヘルシンキ工科大学のプロジェクト(2001年〜2002年)に触れる。

 一方、IFC標準の開発を進めるうちに、達成すべき事柄が限られた時間枠では非現実的な期待(unrealistic expectations)のように位置づけられた。しかも、専門業務(technical work)の量の割に利用できる資金は少額。常に関連技術やリリースされる標準の新バージョンが大きな注目を集めるのに対し、品質管理や安定性、市場のエンドユーザーなどへの考慮は不十分、といった問題点が浮かび上がってきた。

 そこでこれらの課題解決を視野に、IAIは2005年から「buildingSMART」に改称(ただし、日本の組織は「一般社団法人IAI日本」のまま)。技術のみならず、エンドユーザーやモデルの安定性にいっそうフォーカスすべく体制を転換している。同時に、活動の対象範囲(scope)も拡大。プロダクト・データモデル(product data model)を対象とするIFCに引き続き取り組むとともに、BIMプロセス(BIM processes)に関するデータ標準およびデータディクショナリ(data dictionaries)向け標準の開発も展開している。

 同氏はIAIの組織化から、BIMの普及を含むAEC(Architecture, Engineering & Construction)分野のニーズの変化、それらを受けた近年の体制の変遷についてこう概説した。

Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment

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