同氏はまず、経路探索(wayfinding)に関する研究の一つとして、避難時における人の標識(signage)に対する反応の仕方に着目する。EXODUSは標識を配置してそれがどこから物理的に見えるか予測、標識システムを設計できる機能を有する。ただ、それをモデル化し設計に使うのであれば、人が実際に標識を見てそれにどう反応するか理解しておく必要がある。
そこで同氏らは、T字路(T intersection)で人が標識に向かって歩いていくといった単純な状況下で、人がそれに反応する仕方を実験により計測。被験者はそれぞれ頭にカメラを装着し、自ら何を見て、何をしているかビデオで撮影した。実験には建物のレイアウトを知らない人々が参加。事前説明では火災が発生し、警報が鳴る中で必要な手段を講じつつ可能な限り早く建物から出ることのみ求められ、標識に対して何をすべきかなど具体的には触れられていない。しかし、当該建物のレイアウトを知らない以上、彼らにとって非常用標識(emergency signs)に従うことが最善の避難方法であることは明らかだった。
被験者が正面の標識に向かって真っすぐ近づいていけば、それを見ることは容易で、そこには向かうべき正しい方向が示されている。ところが実験の結果、61%の人は正面の標識を見損ない、間違った方向へ進んだ。一方、39%の人はその標識を見てその全員が指示に従っている。つまり、多くの人は真正面の標識であっても見損なうが、それを見てさえいればその指示通りに進む非常に効果的な手段になり得る。そのためにはとにかく標識を見てもらう必要がある、と考えられた。
そこで同氏らは、こうした実験を通じ得られた情報をEXODUSモデルに反映。標識が単に物理的に見えるというだけでなく、それがどう見えるか、人がそれにどう反応するかをよりリアルに再現することを可能にしている。
経路探索に関してはもう一つ、大型スーパーマーケットでの避難シミュレーションを試みている。まず、標識が複数設置された建物内を、非常口の位置を知らない人々がどう避難するか、調査。先の事例と同様、標識を見た人はその指示に従って方向転換するなど、標識の効果の可能性を確認。では、どうすれば標識を見てもらう可能性を高められるか、換言すれば、標識をより理解しやすくしてその(標識自体が持つ、人に与える意味をなす)アフォーダンス(affordance)を向上できるか、が次なるターゲットに位置付けられた。
その際、標識を大きくするという選択肢は、建築家が好まないこともあり除外。小さな標識のままでそのアフォーダンスを向上する方法として、人の注意をひくため、標識に@灯りをつける(lights)A光を点滅させる(flashing lights)B光を動かす(running lights)といった3種類が想定された。
次いでガレア教授は、FSEGがこれらのソフトウェアを活用し、近年取り組んできた主要な複数の研究事例を紹介した。
建物内には約450人が滞在。メインの出口には先の例と同様にセキュリティのためのカードリーダーが設置されており、その周辺は時間の経過とともに混雑を来した。実験ではビデオ映像からフレーム毎に出口周辺の人の数を計測。それを基に、1u辺りの人の集積密度と時間の経過との関係の推移をグラフ化し、EXODUSによる予測と対比。とくに、時間毎に予想される集積密度の最小値と最大値を平均した値は、実験結果に近い形を示し、同氏はEXODUSによるシミュレーションがこうした条件下での実際の避難をかなり正確に再現できることが窺われる、との見方を語る。
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EUの第7次研究枠組計画(FP7、2007年−2013年)における「SAFEGUARD」プロジェクトの一環として取り組まれた、航海中の大型客船での事前アナウンスのない避難実験に参加している乗客たち。この避難実験を通じて収集されたデータは、船舶避難モデル向け検証用データセットの規定に使われている。
Passengers participating in an unannounced evacuation experiment on a large passenger ship at sea as part of the EU FP7 SAFEGUARD project. Data collected from this evacuation experiment is used to define a validation data set for ship evacuation models.
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maritimeEXODUSによる「SAFEGUARD」船舶避難実験のシミュレーション
maritimeEXODUS simulation of the SAFEGUARD ship evacuation experiment.
(画像はエド・ガレア氏 提供/(有)ライティング・ソリューションズ 訳)
(Images provided by Ed Galea/Translated by WritingSolutions Ltd.) |
もう一つの検証例は、航海中の大型客船を対象とした大規模なもの。避難の実験は休日の午前、2,500人に上る乗客の多くが朝食中、あるいは客室で休息している時間帯に、やはり実験について乗客への事前アナウンスが何もないブラインド方式のシミュレーション(blind
simulation)として行われた。これに対し、maritimeEXODUSを使い、乗客らがさまざまな指定集合場所(assembly station)へ移動するプロセス(assembly
process)をシミュレーションしている。
避難開始から全員が集合するまでのプロセス(避難した人の数と避難に要した時間との関係の推移)を見ると、実験の計測とモデルによる予測それぞれのシミュレーション結果は非常に近い推移を示した。さらに同氏は、maritimeEXODUSによるシミュレーションの成果として、船上の中央アトリウム空間(central atrium)を通り、あるいは表階段を上り、乗客らがそれぞれの集合場所へと進む様子、やがて上甲板やその昇降口付近で混雑が発生してくる様子をリアルに再現。いずれのアプローチでも、同船において要求される安全避難時間(required safe time)内にすべての乗客を何とか所定の場所に集合させられることが分かった、とする。
同氏はこれら3事例を踏まえ、実際の避難あるいはその集合プロセスを予測するEXODUSの合理的な機能への確信を述べた。
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