FSEGで開発されたツールの有効性に関連し、ガレア教授は自身らが作成した避難モデルの検証(validation)にも触れる。

 その一例として挙げるのが、正面および側面に計2ヵ所の出口を備えた2階建て建物(図書館)のデータセット(data-set)を基に、EXODUSを使いシミュレートした避難予測と、建物内の人々に対し事前のアナウンスなく、そこから素早く避難することを求めた実験との比較。実験結果(避難した人の数と避難に要した時間との関係の推移)から、避難モデルはさほど悪くない(同氏)避難行動の再現を示したものの、実際の避難プロセスとの差異も見られた。

 この点について同氏は、正面出口に設置された回転式出入口(turnstile)の通り方の問題に注目した。つまり、回転式出入口を普段通る際は、セキュリティカードをカードリーダーに翳すことが求められる。しかし避難時には、その必要はなく自由に通過できるようになっている。避難モデルでは当初、人々がすぐ適切に行動するものと想定し作成されていたのに対し、実際の避難ではその仕組みが理解されず、被験者はカードを使おうとして回転式出入口を正しく作動できなかった。このことが避難を阻害し遅延を来していたことから、同氏らはそうした要素をモデルに反映。最終的には、モデルによる予測と実験結果の、より高精度な一致(agreement)を実現している。

 併せて、同モデルに基づく避難のプロセスをVRでシミュレーション。2ヵ所の出口へ向かう人の流れ、あるいは回転式出入口で生じる渋滞の様子などが実験結果とかなり近い形で再現された。

それとは別に、ポーランドにある図書館では警報の後、アナウンスを流して火災発生のため来館者に急ぎ避難するよう促す実験が行われている。同実験では、図書館出口付近の人の数、時間の関数(function of time)としての1u辺りの人の集積密度とその変化を計測。これを、buldingEXODUSで予測する当該エリアの集積密度の変化と対比し、シミュレーションの正確性を検証することとした。 

Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment

 そのうち、近年EXODUSを適用した事例の一つが、空港ターミナル内を人々がどのように循環しているかをシミュレートするもの。これを基に、出発する人および到着した人の数や活動にさまざまな条件を設定し、より効率的な人の流れになるよう設計を検討できる。またこのような施設では、人の流れのみならず、緊急時の避難や安全対策も考慮する必要がある。その意味でもこのモデルを活用する手法は、各要素を全体論的(ホリスティック)な観点(holistic view)から捉えることが可能で、極めて有効なツールになる、とガレア教授は見方を示す。

 もう一つの例では、9.11事件当時、WTCの内部で実際にどのような避難がなされていたかの再現を目指した。この避難シミュレーションにより、約8,000人がWTCノースタワーから避難するのにどれほどの時間を要したか概ね正しく予測。そして、もし同タワーに(ピーク時に相当する)25,000人がいたら実際よりもはるかに多い死亡者数を記録していたはず、とのシミュレーション結果が示された。

 次いで同氏は、9.11事件以降、欧米を中心に避難時のエレベーター利用が注目されたのを受け、モデリングツールを使いその利用の仕方について考察した例を挙げる。まず、1万人がいる50階建てビルを想定。上層階から下層階への避難にエレベーターを使うトップダウン戦略(top-down strategy)と、10階ごとに4ヵ所設けられたスカイロビーまで階段で下りてそこからエレベーターを使うスカイロビー戦略(sky lobby strategy)をモデル化。それらを基に各アプローチをシミュレートし比較検討した結果、ビルから全員が階段のみを使って避難するのに40分かかるのに対し、トップダウン戦略では23分、スカイロビー戦略では18分と大幅に避難時間を改善することが分かった。一方、ビル上層部半分の人のみをまず出来るだけ早く避難させようとすると、トップダウン戦略では13分なのに、スカイロビー戦略では17分を要すことも分かった。そこで同氏は、目的に応じて異なる採るべき戦略への理解の重要性と、こうした研究に対するモデリングツールの有用性に言及する。

近年の主なソフト適用例

 FSEGでは、これらソフトを広範な分野で適用してきた。

 ガレア教授はまず、大型旅客機の設計時における最も効率的な避難の仕方の研究やリスク回避の性能予測、制約の多い歴史的建造物からの避難手法改善の検討について紹介。そのほか、鉄道駅やオリンピックスタジアム、艦艇、大型客船の設計時など多岐にわたる適用例を列挙する。また国土安全保障の関連では、米同時多発テロ事件で標的となった世界貿易センター(WTC)からの避難シミュレーションや米国防総省本部庁舎(Pentagon)向け避難システムの開発、あるいはテロ攻撃を想定した自由の女神からの避難方法の改善・検討への取り組みにも触れる。

 さらに、これら構造物の設計シーンばかりでなく、過去に実際あった惨事や事故(火災)で何が起こったかを把握し、そこでの避難に関する事実を調査・分析(フォレンジック分析:forensic analysis)するシーンへの適用に言及。その一例として、米ロードアイランド州のナイトクラブ火災を挙げる。

 その上で同氏は、さまざまな状況で人々が実際にどう行動するかを理解することとともに、それに付随する実験の重要性を語る。つまり、単に人間行動を理解し、定量化(quantify)してソフトウェアを開発するだけなら、コンピュータゲームとさほど変わらなくなってしまう。FSEGの取り組みがそれらと大きく異なるのは、説得力のあるエンジニアリング・ソフトウェア・ツール(engineering software tool)として、実際に構造物を設計するのに使われることだと位置付ける。

 そこで同氏らは、ソフトウェアの開発と併せ、人々の行動を理解し、定量化するための実験に多くの時間を割いている。そのような意図を反映し、FSEGが世界中で実施してきたモデリングプロジェクト例として、脱線した鉄道車両、沈没しようとしている艦艇、公開イベント会場や高層ビル、大型客船などからの避難に関するデータを集めるための実験、さらに避難を補助する各種装置の性能を定量化するための実験を挙げる。
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