情報重畳の考え方と情報がもたらす作用

 ノヴァック氏はまず、今回プロジェクトの主要な着眼点を説明する前段として、自身がオランダの古都デルフト(Delft)で撮影した、築後何世紀も経たであろう建築物を映す水面に、複数のスイレンが漂う様子を切り取った写真を提示。ただ、その画像からだけでは、例えば、それがいつ撮影されたか想定することも出来ない、と述べる。

 それに対し、同じ場所の少し異なるアングルで撮影した写真の水面には、スイレンに交じって現代風の生活ゴミが映り込み、これが21世紀の1シーンであろう事実は見て取れる。

 このことは、私たちが写真の中の環境と、そこに重畳された別の情報を同時に得ていることを意味するという。もちろん、それらの情報は必ずしもポジティブなものばかりではない。時にはネガティブな、汚れた状態であったり、ノイズであったりもする。同様のことは、図形情報(graphic information)や設計情報(design information)にも当てはまる。

 そうした一例として同氏は、やはりデルフトの街中で撮影した別の写真を示す。そこでは、背後に聳える歴史的な教会の尖塔を遮るように、比較的新しく設置された道路標識を大きく中央に配置。その結果、視覚的にはネガティブな要素である「道路標識」により、ポジティブな「教会の尖塔」への人々の注意がそがれる作用をもたらすとする。

 もう一つは、同市内の車道に面したショーウインドウの写真。ガラス越しの店内の様子、文字や絵で表現されたさまざまな種類の意味を通して、それがオランダ国内の街中に立地する中華レストランであり、店内の水槽には金魚が飼われていることが分かるほか、店に関する情報へのインターネットのリンクも得られる。

 これらの中にも、人をその場所に引きつけたり、逆にその場所から遠ざけたりする要素はある。そのため、私たちはそれらの情報を知的に選択。個々の情報がうまく機能していればポジティブに感じられ、そうでなければノイズになる、と同氏は位置づける。

 

VR空間への情報重畳

 環境に情報を重ね合わせるという観点から、ノヴァック氏はUC-win/Roadで作成するVR(Virtual Reality)空間などを利用してデモンストレーションを行う装置の可能性に注目。その具体例として、ヘッドアップディスプレイ(Heads-Up Display:HUD)を挙げる。

 これは、車のフロントガラス越しの視界を模したスクリーンあるいはディスプレイにVR映像を投影し、そこに情報を重畳するもの。もともと軍事利用向けに開発された技術を応用、自動車走行中の視野に捉えられる風景に各種情報を重ねて見ることが出来る。

 ただ、自然や環境に重畳する情報は、前述のように、ポジティブなものばかりとは限らない。また、HUDは自然環境の現実性を高める効果には繋がらないものの、開発当初の経緯もあって戦闘シーンもしくは特定の何かを見つけるといった目的には役立つ。そのため、ゲームやVR環境を扱うソフトウェアに応用されがちという。

次ページへ続く

Top Page

Continued

1

2

Next >

3

掲載記事・写真・図表などの違法な無断転載を禁じます。
Copyright
©2011 The WrightingSolutions Ltd. (http://www.wsolutionsjp.com/) All rights reserved.
リンク|
サイトマップ|
 お問い合わせ
カリフォルニア大学サンタバーバラ校 メディア・アート技術研究大学院プログラム 教授
マーコス・ノヴァック

Marcos Novak,
Professor, Media Arts & Technology Graduate Program, University of California, Santa Barbara


(写真は潟tォーラムエイト 提供)
(Photo provided by FORUM8)

 2011年度「World 16」プロジェクトの研究成果に関する最初の発表は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California, Santa Barbara:UCSB)メディア・アート技術研究大学院プログラム教授のマーコス・ノヴァック氏による「Media Field Navigation(メディア表現領域のナビゲーション)」。そのプロジェクトの原題は前年と同じだが、今回はそれに、「Vectors of Attention(注意のベクトル)」という副題を冠する。

 同氏は、多様な先進技術を駆使し、広範にわたる芸術およびメディア表現にフォーカスした研究で知られる。

 発表の冒頭、同氏は今回プロジェクトのベースとなる技術の一つ、プロジェクションマッピング(Projection Mapping)に触れる。これは、CG(Computer Graphics)などの映像を建築物のような立体的な物の形状に合わせてプロジェクターで投影、多彩な表現を可能にするもの。

 その上で、同氏は環境をある種のディスプレイにするアプローチへの自らの関心とともに、環境の中に情報を重畳(overlay)するためのさまざまな装置やデータベース、技法に言及。さらに、そこでのUC-win/Roadの新たな適用の可能性へと展開する。

Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment

WritingSolutions
WebMagazineTitle
Forum8
WMVR
「第5回 国際VRシンポジウム」リポート(3):<World16>(2011年)研究発表1
Report on the 5th International VR Symposium (3) : The 1st Presentation of “World 16” 2011

メディア(表現)領域におけるナビゲーション:
注意のベクトル

Media Field Navigation: Vectors of Attention

By 池野隆(Takashi IKENO)
(掲載 7/19/2012)
Webマガジンの特集カテゴリ

CALS/EC
VR(バーチャルリアリティ)
その他