記憶を回想することは、人間のアイデンティティの感覚(sense of identity:人が自分を自分であると認識する感覚)の貴重な一つ。加えて、音楽や小説など一般に普及しているメディア(popular media)は、たとえそれらが本人によって直接創作されたものでなくても、人の記憶の一部になり得る。

 また、パーソナル・インフォマティクス(Personal Informatics:個人の情報学)は、自己の投影と自己監視を目的とし、個人的に関連がある情報の収集を支援する一つの学問分野(discipline)と言える。そこでタージディス氏は同プロジェクトにおいて、普及しているメディアから取得したシナリオを個人の記憶に転換するため、このパーソナル・インフォマティクスを適用することとした。

 一方、情報を主体化するアプローチとして近年、注目されているのがライフログ(Lifelog)だ。これは、人の生活や活動をデジタルデータとして記録に残そうというもの。映像や音声、位置情報などが含まれる。

 同氏は講演の冒頭、日記や航海日誌を例示。それらには、自らが遭遇する空間についてどう感じるかといった個人的な記憶が記述され、人の移動の履歴が形成されるとする。

 そうした従来からの手法とは別に、現代は一つのトレンドとして情報科学(computer science)関連サービスの利用も進んでいる。例えば、Foursquare(フォースクエア)、Gowalla(ゴワラ)、Google Latitude(グーグル ラティチュード)など位置情報に基づく(location-based)各種ソーシャル・ネットワーキング・サービス(social networking service:SNS)の機能を通じ、ユーザーが空間の中でどう感じるか、それを他の人々にどうコミュニケートするか、自身が行っていることを他の人々に伝えるため自身の情報をどう使うか、といった形でさまざまな情報が作成・利用され、やり取りされている。

 その際、その他GPS(Global Positioning System)関連のソフトウェアを含め、人々のネットワーク上のユーザーとして、その中心に位置づけられるのは基本的に「あなた」自身だと説く。

 そこで同氏は、マサチューセッツ州ケンブリッジ市およびボストン市に跨るハーバード大学周辺の地図、および同じエリアを俯瞰で捉えた航空写真を提示。しかし、いずれも「私」にとってさほど意味のある情報が含まれておらず、あたかもその空間には自身が存在していないかのようだと形容する。




  (次ページへ続く

ハーバード大学大学院 デザインスクール 准教授
コスタス・タージディス

Kostas Terzidis,
Associate Professor of Architecture, Graduate School of Design, Harvard University


(写真は潟tォーラムエイト 提供)
(Photo provided by FORUM8)

 2007年に「World 8」が発足した当初からのメンバーの一人、ハーバード大学(Harvard University)大学院デザインスクール准教授のコスタス・タージディス氏。製品やサービスを利用する際の使い心地や楽しさなど、人が知覚する体験にウェートを置くユーザーエクスペリエンス・デザイン(user experience design)に関する包括的なコンサルタント業務を行うザ・ミーム(THE MEME、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)では、研究開発(Research and Development)部門の主任も務める。

 前々回(2008年のWorld 8)、前回(2009年のWorld 16)の各プロジェクトで、同氏は確率的探索(ストキャスティック・サーチ:Stochastic Search)のアプローチに3DリアルタイムVR(Virtual Reality)ソフト「UC-win/Road」を適用。順列により網羅的な任意探索を行う確率的探索手法を利用した各種モデルの自動生成、次いで、その成果を応用した建築や交通のデザインの可能性を探る研究を展開してきた。

 2010年のWorld 16プロジェクトに当たり、同氏は情報の客観性に潜むユーザー回避の危険性を考慮。情報の客体化(the objectification of information)からの脱却を狙いとするUC-win/Roadの利用を構想した。

 具体的には、前述のユーザーエクスペリエンス(ユーザーが知覚する体験)への関心から、@ユーザーがナビゲーションパス(navigation path:移動経路)についてどう感じるかAナビゲーションの中に個人的な生活あるいは活動(personal life)の一部をどう位置付けるかB記憶とは何か ― といった観点に注目。それらを通じ、よく知らないことの習熟(the familiarization of the unfamiliar)、あるいは客観的な情報の主体化(the subjectification of the objective)に向けた研究を試みている。

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空間と「私」についての情報
By 池野隆(Takashi IKENO)
(掲載 11/10/2011)
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