次なる課題と新たな展開

 今回プロジェクトでは、これらの成果は2Dながら、さらにSDK(ソフトウェア開発キット)を使ってUC-win/Roadの3D空間上に実装された。

 自身が5年間暮らしていたボストンの街並みを背景に、スティックフィギュアの複数エージェントが画面の左右から合流。そこに手描きパッドなどで障害物となる3Dの植栽を配置すると、リアルタイムに人の流れが変化する。流れが詰まれば、植栽の一部で間隔を空けることにより人の流れは復活する。

 3D空間上での空間認識は、2Dからだけでは得られない空間的要素の考慮を可能にする。例えば、噴水をどこに置いたら良いかという時、その空間内に入って実際のスケールで考えないと、2Dと3Dでは違った空間のように捉えられることも起こり得る。その意味で、今回の研究はミドルウェアとして2Dのプラットフォームを介し、3D上のシミュレーションを行っているが、もともとそのように別途設ける必要はなく、3D上に障害物を直接描き込むことは可能、と同氏は説明する。長期的には完全な3D上でのシミュレーションを視野に入れているという。

可視化から能動的デザインツールへ: 人の流れを見ながら植栽配置をヒューリスティックに求める
From Visualization to Generative Applications: to determine the planting design heuristically while seeing human flow
手描き入力パッド利用によるリアルタイムデザイン
Real-Time Design Created with a Handwriting Input Pad

(画像は楢原 太郎氏 提供/(有)ライティング・ソリューションズ 訳)
(Images provided by Taro Narahara/Translated by WritingSolutions Ltd.)

Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment

 一連のプロジェクトを通じ楢原太郎氏は、人間行動モデルは空間特性解析的な用途(analytical approach)に多く使われているとし、その世界は非常に奥が深いとの見方を示す。ただ、デザイナーとしては、それをいかに空間創発的な視点(generative approach)へと移行していくかに注目。こうしたエージェントの挙動を、どのような空間が派生されるか、どのような形で良いデザイン事例(design instances)が得られるか、といった方向に利用していくのが新たな挑戦と自らに課す。

 そうした考え方は、構造解析の分野では例えば、材料や構造の特性、空気力学(aerodynamics)などに基づきデザインを創発する位相最適化(Topology Optimization)ソフトが既に実践されている。したがって人間の行動をある程度理解した上で、どのような空間構成が人間の利用目的に対し最適かを見ていくアプローチは可能なはずと語る。

 また、同氏が個人的な研究の興味の対象としてインタラクションデザイン(interaction design)上の問題を挙げる。

 3D空間を点で表現されたエージェントが動き回るシミュレーションの中で、個々のエージェントの行動特性を微妙に変えると、それを反映して経路パターンも変わってくる。例えば、ある地形データ上に少し怠慢なエージェントを入れてやると、出来るだけ山を登らないような経路が創発される。あるいは、コストやルートの長さといった要素で行動パターンを変えれば、道路を建設する際の最小コスト(minimum cost path)計画や最短経路(minimum path)計画の経路パターンが派生してくる。

 そこで、これを実際の建築環境条件に応用。エージェントを使って経路や建物を時空列系で派生させていくと、都市の生成過程をシミュレーションできる。その上で、実際の都市の状況と、エージェントの特性に応じて創発された都市とがいかなる関連性を持つか、研究していく。その先には、単なる行動の視覚化を超え、デザイナーが能動的にエージェントを使って新しいデザインの事例を派生させられるようなツールの開発を描く。

 同氏がもう一つの課題と位置づけるのは、これまでの自身による単一的な入力に対し、複数ユーザーからの集合知を統合して空間構成に繋げるためのインターフェースの開発だ。脳介電装置(Brain-computer Interface:BCI)をはじめとする想念技術、あるいは既存のマウスなどのポインティングデバイス(pointing device)を能動的なデザイン生成にどう活用していくか。とくに、集合知を蓄積し、空間を統合・構成していくといった試みはあまり見られないことから、UC-win/Roadをベースにこれらの物理的な装置を繋ぎ、空間構成を進められるプラットフォームの構築を図っていきたいとしている。


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