DSの導入が求められた背景には、サインについて多彩なバリエーションの実験を行いたい事情があった。
たとえば、「どれぐらい近づいたらサインの内容が判読できるか」といった実験を現地で行おうとすると、ある地点に近づいたらパッとサインが消えるような状態を設定する仕掛けやサインを注視する時間のコントロールが必要になる。ただ、試行錯誤を重ねた末、現地での実験では対応が難しく、シミュレータによらざるを得ないとの結論に至った。
同プロジェクトに当たり、まず3D・VRソフト「UC-win/Road」ベースのシミュレータの導入が考案された。
その際、限られた予算の中で、@そのシミュレータとプローブバイシクルから得られる情報の連携をどうするかA目線が高く、しかも地面まで見えるという自転車の特性を反映する縦長の画像表示をどう実現するか、が大きな課題となった。それに対し、前者についてはいくつかのアプローチを模索する中、ゲームコントローラーの活用を、後者については視野角170度を確保する5面スクリーンの採用を決定。2010年秋からこの新たな自転車シミュレータの開発が着手された。
今回、自転車シミュレータの直接的な導入契機ともなった科研費のプロジェクトでは、自転車の誘導・制御に有効なマークセットの提案を目指すこととしている。山中氏は、既に一部のマークは開発しているものの、場面に応じて変わるサインに従い、自転車利用者が適正に走行してくれるかどうかについては今後、自転車シミュレータを使って確認していきたいと語る。
また、道路の種類や環境、あるいは情報伝達の目的に応じ、さまざまなタイプの自転車用サインが必要になる。しかも、人によって走行したい速度が異なるなど、サインの見え方には個人差の想定も欠かせない。一方、歩道を走行中の自転車が狭い脇道から出てくる車と衝突する事故を防ぐため、自転車に対し進入してくる車の存在を警告するITSサービスに関する実験では、どういうサインを、どういうタイミングで与えれば良いか、探っていきたいという。
それらの要素を踏まえ、各種サインの種類をいろいろに変えつつ、時には危険な状況下で、どのような配置の仕方が有効かを探るには、やはりシミュレータを使った実験でなければ難しい。
「自転車シミュレータが本当に使えるかどうかは、安全性に関する分析にどこまで対応できるかにかかってきます」。その意味から、たとえば、アイマークレコーダーと連動する研究への利用、あるいは事故が起きそうな状況の再現などにトライしていく考えを示す。
Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment
プローブバイシクルと、UC-win/RoadベースのVR空間をリンクする形で開発された自転車シミュレータ。 被験者は、プローブバイシクルを運転しつつ、視野角170度を確保する5面スクリーンを通じて、自らの操作を反映し VRで再現される空間を体感できる。より現実に近い環境の中でシミュレーションを行うことが可能となり、とくに危険な状況でのシミュレーション、あるいは情報をさまざまにコントロールした実験などへの活用が期待される。 (画像は、徳島大学大学院都市デザイン研究室提供) |
この自転車シミュレータの開発を含む科研費プロジェクトと並行する形で、山中氏らは2010年末から2011年初めにかけて、自転車観光案内サインに関する奈良県との共同研究にも取り組んでいる。
これは、近年、旅行先での自転車利用(自転車ツーリズム)への関心が高まってきたのを背景に、初めて訪れる人にも分かりやすいルートサインのあり方を探ったもの。そこで、架空看板や看板柱、路面標示(ピクトグラムや矢羽根、文字)といった自転車のための各種路上案内サインの種類やサイズに応じた有効性の比較・確認を実施した。
具体的にはまず、同氏らがデザインしたサインを提案するとともに、UC-win/Roadで現地のシミュレーションデータを作成。最初の実験の時点(2010年12月)ではまだシミュレータと自転車との連携が完成していなかったこともあり、被験者には各種タイプのサインが設定された動画を(一部被験者にはアイマークレコーダーも着用して)見てもらい、それぞれどの地点で判読できたかを問う形で視認性を確認した。
その後、追加実験(同年12月末〜2011年1月)では開発した自転車シミュレータを使用。変形させたマークに対する有効性の比較・確認も試みている。
研究室でデザインした架空看板、看板柱、路面標示の自転車用サインをUC-win/RoadベースのVR空間に再現。自転車シミュレータを用いた、それらの視認性に関する実験で利用している。 (画像は、徳島大学大学院都市デザイン研究室提供) |
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視認性考慮した中速モード向け情報伝達技術の研究をリード
VR技術活用の自転車シミュレータを導入、広がる実験の可能性
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