■現地実験の制約受け、VRベースのシミュレータ開発へ

 それまでの研究では、現地にサイン板を実際に置き、判読できるか否かを確認していた。しかし、そのような方法では実験の種類や回数が限られたこともあり、共同研究の最終年度頃からシミュレータ利用の可能性が着想されてきた。

 そんな折、(独法)日本学術振興会による科学研究費補助金(科研費)の対象プロジェクト「自転車の視点特性を考慮した情報提示技術の開発に関する研究」(代表者:山中氏、研究期間は2010年度〜2012年度)がスタートしている。

 これは、自転車走行中の注視点分析を用いた実験を通じ、各種サインのサイズや掲出間隔の違いによる見込角、あるいは視認時間が自転車視認に与える影響を探索。その成果を基に、わが国の自転車利用環境に適した自転車用情報提示の基準となる知見を得ようというもの。さまざまな情報提供技術がある中で、自転車用として応用範囲の広い路面標示技術の開発を狙いに、@自転車利用者の視認特性A道路標示の仕様と自転車利用者の認識率との関係Bカラー連続サイン・システムの効果分析 ― の3項目が、そこでの主要な達成目標に位置づけられた。

 そのうちとくに、自転車利用者の視認特性に関する取り組みでは、アイマークレコーダーや頭部姿勢センサーなどとともに、多様な実験条件を設定可能なドライブシミュレータ(DS)から成る実験システムを構築。それにより、自転車利用者の走行中の注視位置や注視時間などの特性を明らかにすることが、具体的なターゲットとして描かれた。

■共同研究での中速モード向け情報伝達技術に関する取り組み

 「自転車のスピードが上がると、(従来の)自転車用サインが遠くからは自転車の形に見えないのです」

 たとえば、高速道路では、高速で走行中の自動車からドライバーが路面標示を判読できるよう考慮。路面標示の縦・横幅に対する視角(見込角)を算出するなどして、適正な表示方法が決められている。また、米国をはじめ海外では自転車用サインも、日本のそれより大きく、かつ縦長に表示される傾向にある、と山中氏は説明する。

 そこで、同氏が自ら主導した情報伝達WGでは共同研究の初年度、自転車用サインのチェックを実施している。具体的には、カーペットとペイントを使い、国内で実際に適用されている自転車マークと、それとはサイズや形状の異なる複数のマークを作成。それらを徳島大学構内の実験用路面に置き、そこを被験者が自転車で実際に走行。マークの何メートルか手前で被験者に曲がってもらった後、「そのマークが何だったのか」を質問。どのサイズもしくは形状であれば、どのぐらいの距離からマークを判読できるか、といった確認を行った。

自転車用サインのデザイン案 (画像は、徳島大学大学院都市デザイン研究室提供)

 それにより、自転車のスピードが上がってくると、従来の自転車用サインの表示方法では十分な視認性を得られず、新たな対応を求められることが明らかになったという。

 翌2009年度は、さらに「単体のマークでは自転車利用者が見落とすこともある」との考え方を反映。まず、前年度と同様、作成した複数のマークを徳島大学構内に配置し、被験者に自転車で実際に走行してもらって実験。マークを連続して置く際、どれぐらいの間隔が適切かを探った。併せて、国道192号のJR徳島駅周辺地区に歩行者・自転車分離柵を設置し、自転車通行帯には中央線を設けた上で、自転車レーンを逆走しないよう各方向を示すカラー連続型路面マークを配置して実験。それぞれの対策効果を確認している。

 さらに共同研究最終年の2010年度は、前述の自転車通行環境整備のモデル事業を実施した複数自治体を調査。ガイドライン作成などに同氏らが協力した自治体に対しては、研究成果に関する評価の分析も行った。

 環境意識や健康志向の広がりを背景に自転車利用ニーズが高まる一方、自転車と歩行者の関係する交通事故が急増してきた。こうした事態に対処するため2007年度、国交省と警察庁は自転車利用環境の安全性向上に向けて連携。現地調査とそれに基づく緊急対策を実施するとともに、中・長期にわたる計画的な自転車通行環境の整備推進体制を確立。併せて、自転車通行空間の模範となる全国98箇所のモデル地区が指定されている。

 わが国ではもともと当該分野の研究が遅れていたのに加え、この一連の施策展開を機に関連する知見の体系化が求められた。そこで土木学会は2008年、土木計画学研究委員会内に「自転車空間研究小委員会」(代表:山中英生氏)を設置。研究成果を共有しつつ、知見を整理し、「自転車の利用空間のあり方」について工学的視点からの提言を目指すこととした。同小委は2011年11月から「自転車政策研究小委員会」に改称。空間整備に留まらず、実践的な成果に繋がる多様な自転車施策を推進していくとしている。

 同小委による活動の一環として着手されたのが、国交省との共同研究「自転車等の中速グリーンモードに配慮した道路空間構成技術に関する研究」(研究代表:山中英生氏、期間は2008年度〜2010年度)だ。

 これは、自転車をはじめとする中速モードに適した道路づくり(日本版・自転車道デザインマニュアルへの展開)を視野に、道路政策や道路空間システムに関する技術などの体系化を目指すもの。中速グリーンモード(環境負荷の少ない中速の交通手段)の利用推進に向け、@海外の先進事例と比較しつつあるべき道路政策や技術指針に迫る政策分析WG(東京工業大学教授・屋井鉄雄氏および大阪市立大学講師・吉田長裕氏)A混在環境を踏まえ道路空間構成について検討する評価分析WG(茨城大学教授・金利昭氏)B視認性の面から適正なアプローチを探る情報伝達WG(山中氏) ― の4氏を中心とする3WGから成る研究体制が取られた。

■高まる自転車利用空間への注目、学会の対応

Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment

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視認性考慮した中速モード向け情報伝達技術の研究をリード
VR技術活用の自転車シミュレータを導入、広がる実験の可能性

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