ジェムトラッド氏らはカナダ政府(工業省社会科学局:SSHRC)から研究助成金を受給。効果的なツールを活用することで官民間のまちづくりに関する情報およびアイディアの共有を向上させる手法について研究。併せて、モントリオールの主要なまちづくりプロジェクトを対象とする市民参画および参加型デザインのための技術開発を目指した。

 同氏らが今回「World 16」プロジェクトで焦点を当てたのは、前回(2009年)と同様、セントローレンス川とラシーヌ運河に挟まれた歴史的な地区ポアント・セントチャールズ(Pointe St.-Charles)をはじめ、鉄道や幹線道路などのインフラが集積するモントリオール市ル・シュッド・ウエスト(Le Sud-Ouest)区を中心とする一帯。そこは、早くから移民が入植し、開発が重ねられてきた独特の歴史を有し、多文化・多言語の人々が集う活気溢れるコミュニティを成す。

 こうしたエリアで進行中のまちづくりプロジェクトに当たり、一般市民が「自分のシナリオを選ぶ」取り組みに参加できるよう支援するメカニズムあるいは生産様式としてUC-win/Roadを使うとの目標を設定。社会経済的に多様な区域の実態を反映し、オンラインVRリソースを作成することとした。

現在の展開:同氏らの研究は、専門家でない人々が複雑かつ効果的なまちづくりプロジェクトに取り組む方策を含むものへと拡張してきた。同氏らは、コミュニティ・グループとともにコンピュータ・リテラシーおよび都市建造物のデザインへの参画を進展すべく研究を続けている。
Current Developments: Their research has extended to include ways for non-specialists to grapple with the complexities and effects of city-building projects. They are working with community groups to develop digital literacy and participation in the design of local buildings.

(画像はFARMM 提供/(有)ライティング・ソリューションズ 訳)
(Images provided by FARMM/Translated by WritingSolutions Ltd.)

 具体的には、コミュニティ・グループと協力しながら広く意見を聞く市民との協議(public consultation)、あるいはコミュニティからのフィードバックループとなり、現場およびコミュニティ周辺の情報も集めるWebサイトなどを駆使し、プロジェクトの啓蒙普及および市民参画促進に努めている。それらのプロセスでUC-win/Roadの活用が位置づけられた。

 前者では、政策ベースのデザインや従来型の市民協議に加え、各分野の専門家集団と地域住民が共同でコミュニティのデザインについて議論する場であるデザインシャレット(design charette)の活動を通じ、近隣地域を多様なアングルから検討する。これは、当該地域の大規模なインフラ提案に対し、先進技術の効果的な利用により行政やデベロッパー側ばかりでなく、市民が自らの地域デザインに参加する草の根的な仕組みを実現しようというもの。そこで、マギル大学大学院建築コースのデザインスタジオを運用。コミュニティセンターの設計に当たり、UC-win/Roadを用いて初期検討や比較検討を行っている。

 一方、後者については、統合デザインフォーラム(Integrated Design Forum:IDF)の構築を掲げる。これは、専門家ではない一般市民が主要プロジェクトに関する背景情報を精査、まちづくりの異なる将来像をVRのシナリオで見て体験、かつそこでのアイディアや可能性、論点などのアウトプットを提供可能にする、ユーザーフレンドリーで双方向型のWebサイトを創出しようというもの。モントリオールにおける建築や都市デザイン、まちづくりに関する公開討論に向け計画中の新たな研究ユニット、マギル都市デザイン工房(McGill City Design Atelier)設置への前段としている。

 これらの仕組みの中から、巨大プロジェクトにおける将来のまちづくりの異なるシナリオをVRでシミュレーションし、都市景観や地域の経済、住民の健康、環境などへの影響を可視化しつつ、オプションの選定に繋げる狙いが描かれた。

ル・シュッド・ウエスト区での市民参画支援

Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment

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 これにより個々のインフラ施設そのものの利便性や安全性、信頼性が増すほか、操車場跡の再開発、あるいは域内の環境・施設との統合性やモビリティの向上を通じた地域の再活性化が期待された。一方、対象区域はセントローレンス川(St. Lawrence River)やラシーヌ運河(Lachine Canal)といった水路、サンジャック断崖(Saint-Jacques Escarpment)、ターコット操車場跡(Turcot Yards)、多様なタイプの居住・産業区域、史跡、数多くの公園などのレクレーション施設、20以上に及ぶ各種学校を内包。そのため、工事期間中および新しいインフラ供用後に想定される環境や住民への負荷を抑制すべく、複数の軽減策が検討・提案されてきた。

 前回(2009年)「World 16」の活動では、最終的な公開というよりも、多岐にわたる利害関係者間で合意形成を図るためのプラットフォームとしてUC-win/Roadの可能性に着目。こうしたインフラプロジェクト向け対策案のモデル化および可視化に取り組んでいる。

 ジェムトラッド氏は、同氏らが2009年に着手した一連の研究プロジェクトも2010年までに予定される作業の1/3を終え、引き続きコンテキスト情報の作成を進めていくとの考えを示す。

建築および都市デザインのための統合普及フォーラム:大規模都市プロジェクトにおける市民参画支援へのUC-win/Road利用

Integrated Dissemination Forums (IDF) for Architecture and Urban Design: Using UC-win/Road to support public engagement and participatory design on major city-building projects

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