現行の推進計画に基づく活動がスタートするのと同時に、標準化委員会の体制も一新。委員長には、冒頭で触れた「建設情報に係る標準化ビジョン策定懇談会」の設立以来、10年以上にわたり務めてきた中村英夫・東京都市大学学長の後任として、東京大学空間情報科学研究センターの柴崎亮介教授が就任した。
また委員会の下には、電子成果利活用小委員会およびCAD/データ連携小委員会を設置。前者は電子納品要領の見直しを中心に、維持管理フェーズでのニーズに対応した電子成果品の検討、市町村レベルで容易に導入可能な電子納品の仕組みや納品されたデータが利活用される仕組みの検討などを実施。後者はCAD製図基準について、データの再利用を確保しながら負担感のないCADデータの作成を可能にする仕組みを検討。併せて、コード類の標準化、データのXML標準化や分散管理された情報の流通基盤など、電子納品データの流通や再利用を促進する仕組みに関する検討を行う ― といった役割分担がなされている。
「それまでは(標準化委員会の)標準化活動というと、標準類をつくれば良いという形で、それを運用していくのは行政(側)というふうに(分けて)考えていたところがありました」
ところが、実際に扱われるのはIT(情報技術)であるため、標準をつくるだけではなかなか効果が現れない。つまり、標準を適用するにはツール類はもちろん、教育・普及活動や業務プロセスの変更など、標準に関連するさまざまな取り組みも必要になる。そこで、標準化委員会の本来の範囲ではない要素も含まれるものの、それらを念頭に置く形で、あるいは事務局を務めるJACIC標準部の自主的な活動として、それらに広く対応していこうという発想に至った。秋山氏は現行計画に込められた狙いをこう説明する。
加えて、たとえば、データの交換と連携に関する活動では、第二次推進計画までで2次元のCADデータ交換標準(SXFレベル2)をほぼ完成。第三次推進計画では3次元データやプロダクトモデルの交換標準(SXFレベル3、4)の検討に注力してきた。ところが、第四次に当たる現行推進計画では「すぐに結果の出る部分に力を入れていくべきでは」との考え方から、3次元の重要性には認識を示しつつも、ややトーンダウン。3次元については当面、基礎技術の開発を自主研究に委ね、その上で標準化課題が生じてきた際に改めて取り組むというスタンスに転換。代わって、CAD製図基準の見直しにウェートを置く形になっているという。
(図はJACIC提供) |
一方、標準化委員会ではもともとコード類の検討を行ってきていた。ただ、建設分野全体をカバーし、国際標準にも則るような大きな枠組みの試みだったことから、当初目指したレベルの成果にはなかなか至らなかった。そのため、現行推進計画ではCAD/データ連携小委員会内のXML/レジストリWGの下にサブワーキング(社会基盤情報を活用するコード検討SWG)を設置。発注機関コードをはじめとする個別のテーマに焦点を当てつつ、社会基盤に関わる事業のライフサイクルにわたって利用可能な位置情報や共通コードをキーとして、電子納品データなどと連携する仕組みの検討が進められている。
Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment
2011年3月に発生した東日本大震災以降、標準化され、情報化された社会基盤情報の利用や共有により、復旧・復興などに関わるさまざまな分野でスピーディな対応に繋がっている側面が窺われる、と秋山氏は説く。
またそれとは別に、自然災害はもちろん、あらゆる緊急事態に備え、事業資産の損害を最小化し、核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能にするためBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の重要性が改めて注目されてきた。そうした観点から、やはり社会基盤情報や電子納品されたデータを確実に保管あるいは再利用する上で、地方自治体などからもその可能性に期待の集まるアプローチがクラウド・コンピューティングやモバイル機器など先進のICT利用だ。
たとえば、紙の情報や、たとえ電子化されたデータであっても手許のシステムに保存されているだけでは、それらが物理的に一旦失われてしまうと、再利用は叶わなくなってしまう。それに対し、クラウド・コンピューティングなどにより遠隔地にデータをバックアップしていれば、データを消失するリスクは分散される。
また、そのように保管されたデータに対してモバイル機器を使い、GISベースで検索できるようにすれば電子納品されたデータの効率的かつ効果的な活用に繋がる。
そこでJACICでは、クラウド技術とモバイル機器を連携させた実験的なシステムについて地方自治体などに呼び掛け、共同研究していく考えという。その過程では、標準化委員会に報告し、助言を得ながら進めていくことも視野に入れている、と秋山氏は語る。
そうした活動のベースには、現行の推進計画において地方自治体を主なターゲットとしていくという標準化委員会の方針が反映されている。また、同委員会は社会基盤情報の標準化に関するアウトリーチ活動にも注力。地方委員懇談会(同委員会内)や土木電算連絡協議会などの場を通じ、前述の共同研究や同委員会の取り組みについて積極的に紹介していきたいとしている。
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転換点に立つ社会基盤情報の標準化
国から地方への展開、震災復興、新たなニーズも視野
「社会基盤情報標準化推進計画2010‐2012」のポイント
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